バイエルン国立歌劇場は私の最も好きな劇場だ。 何が好きかと聞かれると、「すべてが好き」と答えるしかない。 オペラ鑑賞の場合には開演前の気分の高まりがその日の公演に集中できるかどうかに多大な影響を及ぼす。 したがって開演時間まじかに息せき切って駆けつけるなど論外なのだ。 とは言うものの私もよくやってしまう。
この劇場に来場する人々はまず品が良い。 そして優雅だ。 またはたからみていても何とは無くゆったりしている。 これらの人々の中にいるだけで心にゆとりができ、オペラを見る準備ができてくるというものだ。
そして劇場自体の作りがすばらしい。 押さえの利いた豪華さがなんとも優雅だ。 地下のスナックにおいてある品々さえ上品だ。 したがって開演前、幕間も優雅な気分にどっぷりと浸ることができる。
演奏の質だが、これも文句なしに超一流だ。 私の訪れた世界各地約50のオペラ・ハウスの中での私の評価は群れを抜いた1位だ。 まず失望させられることは無い。
この演奏の質には聴衆の集中度が重要な影響を与えることはいうまでも無い。 ここは聴衆の質が実に高い。 オーケストラ、歌手、バレーそして裏方がその聴衆の期待に応える。 すばらしい相乗効果だ。 聴衆はその夜の演奏に満足すると惜しみなく拍手を送る。 これがまたすごく、えんえんと続く。 ミュンヒェンで演奏できる者の冥利ではないかと思う。
 バイエルン国立歌劇場
 バイエルン国立歌劇場で鑑賞したオペラ
 チケット
 キュビリエ・テアター

バイエルン国立歌劇場

Nationaltheater国立歌劇場はマックス・ヨーゼフ・プラッツ Max-Joseph Platz に面して建つ。 上写真がその広場から撮ったもので、王宮=レジデンツ Residenz はこの左側に位置する。 なおこの劇場のすぐ隣にはレジデンツテアター Residenztheater と言う劇場がある。 ここは演劇用の劇場で、キュビリエ・テアター(別名アルテス・レジデンツテアター)ではないので注意を要する。
ハウプトバーンホーフ(中央駅)方面からは19番のトラムが便利で、劇場前に止まる。 Sバーン、Uバーンだとマリエンプラッツ Marienplatz から新市庁舎 Neues Rathaus の脇を北に200m余歩くとマックス・ヨーゼフ・プラッツだ。
入場券売り場はかつては写真右側のマキシミリアン・シュトラーセ Maximilianstraße を劇場に沿って行った劇場裏手の搬入口のある道を渡った所にあったが、現在この場所は再開発中で、暫定的?に劇場正面を入った右側にある。

バイエルン国立歌劇場で鑑賞したオペラ

Münchner Festspiele 1971

1971年7月26日 R. シュトラウス 「サロメ」
  Salome Leonie Rysanek Jochanaan Dietrich Fischer-Dieskau
  Herodias Astrid Varney Herodes Gerhard Stolze
  Narraboth Wieslaw Ochman Erst. Nazarener Kurt Böhme
  指揮 Ferdinand Leitner 演出 Günther Rennert
  美術 Rudolf Heinrich 衣装 Rudorf Heinrich
1971年7月27日 モーツアルト「魔笛」
  Tamino Adorf Dallapozza Pamina Edith Mathis
  König Rita Shane Sarastro Franz Crass
  Papageno Herman Prey Papagena Monique Lobasa
  Monostatos Friedrich Lenz Sprecher Dietrich Fischer-Dieskau
  指揮 Rudolf Kempe 演出 Günther Rennert
  美術 Josef Svoboda 衣装 Erick Kondrak
1971年7月28日 ヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」
  Simon Eberhard Wächter Fiesco Ruggero Raimondi
  Ameria Gundula Janowitz Gabriele Robert Ilosfalvy
  Paolo William Murray Pietro Jánis Tessényi
  指揮 Claudio Abbado 演出 Otto Schenk
  美術 Jürgen Rose 衣装 Jürgen Rose
1971年7月29日 モーツアルト「後宮からの逃走」 キュビリエテアター
  Constanze Sylvia Geszty Belmonte Werner Hollweg
  Blonde Elke Schary Pedrillo Willi Brokmeier
  Osmin Zoltan Kelemen Selim Worfgang Schwarz
  指揮 Heinrich Hollreiser 演出 Günther Rennert
  美術 Wilhelm Reinking 衣装 Wilhelm Reinking
1971年8月 1日 ベルク 「ヴォイツェック」
  Wozzeck Theo Adam Marie Wendy Fine
  Hauptmann Georg Paskuda Doktor Kieth Engen
  指揮 Carlos Kleiber 演出 Günther Rennert
  美術 Rudolf Heinrich 衣装 Rudolf Heinrich
1971年8月 6日 ヴァーグナー 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」
   Walter Gerhard Unger Eva Leonore Kirschstein
  Sacks Theo Adam Pogner Franz Crass
  Beckmesser Klaus Hirte David Gerhard Unger
  指揮 Ferdinand Leitner 演出 Rudolf Hartmann
  美術 Hermut Jürgens 衣装 Sophia Schröck
1971年当時わが国ではようやくバイロイトやザルツブルクのフェスティバルは愛好家の間に名前が知られてきていた。 それというのもこの年またはその前年あたりから夏の音楽祭めぐりのグループツアーが催されるようになり、音楽会会場でそのチラシが配られるようになったからだ。
私がこの年にヨーロッパに行くことにしたきっかけは、超格安の航空券(と言ってもロンドン往復で25万円、この時代には格安航空券は存在していなかったのだ。)が入手できることになったことと、アメックスからバイロイトの入場券が購入できることになったからだ。 そのアメックスからはさらにザルツブルクとミュンヒェンのフェスティバルのチケットの入手も可能だと言う連絡をもらった。 スケジュールを観るとミュンヒェンのフェスティバルの出し物、出演者はザルツブルクよりはるかに魅力的だ。 そこでミュンヒェンに重点を置くことにして6演目のチケットを購入した。
まず最初の日に観た「サロメ」にはまさに圧倒された。 あの軽いふわっとした感じのフィッシャー・ディースカウの声が、この日は全く違った響きを持っていたのだ。 自信に満ちたヨカナーンの声が、井戸の中から朗々と聞こえてき、私の体が大きく共振する。 「サロメ」の公演に接するたびに今でもこのときのディースカウの感動がよみがえってくる。 リザネックのサロメはイメージと大いにかけ離れていて興ざめであったが。 
「魔笛」でのヘルマン・プライのパパゲーノ、「マイスタージンガー」のクラウス・ヒルテのベックメッサーなどの名演技名歌唱も大いに堪能したものだ。

1974 - 1976

1974年3月12日 R. シュトラウス 「エレクトラ」
  Elektra Danica Mastilovic Orest Franz Crass
  Klytämnestra Astrid Varnay Aegisth Fritz Uhl
  Chrisothemis Hildegard Hillebrecht junger Diener Georg Paskuda
  指揮 Wolfgang Sawallish 演出 Günther Rennert
  美術 Rudolf Heinrich 衣装 Rudorf Heinrich
1974年3月14日 ヴェルディ 「ドン・カルロ」
  Carlos Robert Ilosflvy Elisabeth Anna Alexieva
  Philipp II Karl Christian Kohn Rodorigo Wolfgang Brendel
  Eboli Patricia Johnson Großinquisitor Victor von Halem
  指揮 Rudolf Kempe 演出 Günther Rennert
  美術 Josef Svoboda 衣装 Sophia Schröck
1974年3月19日 ムソルグスキー 「ボリス・ゴドゥノフ」
  Boris Marti Talvela Schuiskij Fritz Uhl
  Grigorij Toni Krämer Marina Eva Randova
  Pimen Franz Crass Blõdsinniger Gerhard Stolze
  指揮 Heinrich Bender 演出 Hans Hartleb
  美術 Hermut Jürgens 衣装 Jürgen Rose
1976年5月 6日 プッチーニ 「トスカ」
  Tosca Teresa Kubiak Cavaradossi Placido Domingo
  Scalpia Shrrill Milnes Angelotti Raimund Grumbach
  指揮 Jesus Lopez-Cobos 演出 Götz Friedrich
  美術 Rudolf Heinrich 衣装 Reinhardt Heinrich
1976年5月13日 モーツアルト 「魔笛」
  Tamino Werner Hollweg Pamina Erika Köth
  König Hildegard Uhlmacher Sarastoro Franz Crass
  Papagena Janet Perry Papageno Wolfgang Brendel
  Monostatos Gerhard Unger Sprecher Lief Roar
  指揮 Heinrich Bender 演出 Günther Rennert
  美術 Josef Svoboda 衣装 Erich Kondrak
この期間の公演についてはほとんど記憶が薄れてしまった。 「ボリス」が絢爛豪華、重厚な舞台であったこと、そして「トスカ」で初めて聞いたドミンゴがほとんど印象に残らなかったことくらいだろうか。

1999

1999年10月 8日 ロッシーニ 「アルジェリアのイタリア女」
   Isabella Maria José Trullu Lindoro Paul Gimenez
   Elvira Simina Ivan Mustafa Lorenzo Regazzo
   Taddeo Carlos Chausson Haly Gerhard Auger
   指揮 Marcello Viotti 演出 Jean Pierre Ponnelle
   美術 Jean Pierre Ponnelle 衣装 Jean Pierre Ponnelle
この年は北イタリアのドロミテへのハイキング目的でヨーロッパに出向いたのだが、ボルツァーノに近いゲート・シティーと言うことでミュンヒェンを選んだ。 当然この地でのオペラも念頭に入れてのことだ。
インターネットでこの公演チケットを購入しようと試みたがすでに完売。 そこでアーベントカッセが開く30分ほど前から入り口に並ぶ。 すでに1人の日本人が並んでいた。 程なくチケットを持った人が現れ、私はその人からフェース・ヴァリューでチケットを手に入れることができた。
この演出・美術・衣装ジャン・ピエール・ポネルの「イタリア女」はまず衣装がコミカルかつ豪華絢爛、そして演出がこの音楽、衣装、美術に実にマッチしており、また照明も当を得たものであった。 歌手陣、オーケストラも文句無く、ミュンヒェンで見たオペラの中では一番私を楽しませ、満たされた気分にしてくれたオペラと言えよう。
2001年同じポネルの演出・美術・衣装でウイーン国立歌劇場でアグネス・バルツァのイザベッラで観たが雲泥の出来でこちらはほとんど楽しめなかった。

2001

2001年11月24日 ヘンデル 「エーシスとガラテア」 キュヴィリエテアター
  Galatea Juliane Banse Acis Kobie van Rensburg
  Damon Toby Spence Polyphemus Markus Marquardt
  指揮 Joshua Rifkin 演出 Stefan Tilch
  美術 Antony McDonald 衣装 Antony McDonald
2001年11月24日 パーセル 「ディードーとエネアス」 キュヴィリエテアター
  Dodo Anna Caterina Antonacci Aeneas Jon Ketilsson
  Belinda Sophie Daneman Spilit Anja Augustin
  指揮 Joshua Rifkin 演出 Aron Stiehl
  美術 Antony McDonald 衣装 Antony McDonald
2001年11月25日 ベッリーニ 「清教徒」
  Elvira Edita Gruberova Arturo Gregory Kunde
  Riccardo Paolo Gavanelli Giorgio Alastair Miles
  Valton Gerhard Auger Enrichetta Liliana Mattei
  指揮 Friedrich Haider 演出 Jonathan Miller
  美術 Isabella Bywater 衣装 Clare Mitchell
2001年11月26日 ベルリオーズ 「トロイア人」
  Énée John Villars Didon Waltraud Meier
  Cassandre Deborah Polaski Chorébe Gino Quilico
  Andromache Mirjam Baßler Anna Hélène Perraquin
  Ascagne Stella Doufexis Narbal Jan-Hendrick Rootering
  指揮 Zubin Mehta 演出 Graham Vick
  美術 Tobias Hoheisel 衣装 Tobias Hoheisel
この年は久しぶりにオペラ鑑賞を目的に、ヨーロッパ各地のスケジュールを見比べながら旅程を作成した。 その結果、ミュンヒェンで3夜(4公演)、ウィーンで3公演、初めて訪れるプラハで1公演を見るということになった。 特にミュンヒェンではかねてより一度観ておきたいと思っていた「トロイア人」と4月にニューヨーク・シティー・オペラで初めて観てほほえましく思った「エーシスとガラテア」が組み込めた。 おまけに「エーシス」は再び訪れたいと思っていたキュビリエ・テアターでの公演である。 ただしこの公演のチケットは完売であった。
「エーシス」についてはキュビリエ・テアターの項で述べることにして、「清教徒」に話を移そう。 ベッリーニ作品は余り観たことがなく、この作品についてはかなり以前に藤原歌劇団の公演で観たような気がするがそのパンフレットが見当たらないので観たことがないのかもしれない。 不思議なのだがベッリーニの公演を見つけると観たくなるのだ。 しかし今回は「トロイア人」とキュビリエ・テアターに心を奪われていて、この作品はまあ観ておこうかといった感じでチケットを購入した。 ところがエディタ・グルベローヴァの完璧な歌唱により実に密度の濃い公演に酔いしれた。 幕が下りると嵐のような賞賛の拍手に包まれ、いつ果てるともなくそれが続く。 これがミュンヒェンの聴衆だ。
「トロイア人」はメットのレヴァインのLDで十分予習して行った。 第1幕の落城間近のトロイのセットはなかなか良く、これは楽しめそうだとひざを乗り出したが、第2幕目はがらっと趣が変わり、カルタゴ人の服装が何と中国の国民服のようなもので一気にイメージが壊れた。 そのせいか演奏まで精彩を欠いたものに感じられたのは残念だった。 オペラとはまさに総合芸術である。

チケット

2002-2003 シーズンのオペラのチケットは特別公演のカテゴリーSの場合だと最高240ユーロだが、通常公演はおおむねカテゴリーH(最高85ユーロ)、I(最高97ユーロ)がが多い。 「清教徒」や「ラインの黄金」はカテゴリーK(最高129ユーロ)、「神々のたそがれ」がL(最高160ユーロ)、大晦日の「こうもり」がM(最高190ユーロ)と良心的だ。
チケットはバイエルン国立歌劇場のホーム・ページ http://www.bayerische.staatsoper.de/ から席まで指定できる。